序文
暗号資産は、インターネット上で動く特別な「デジタル資産」で、2009年に生まれたビットコイン(Bitcoin)をきっかけに、世界中で大きく注目されています(Nakamoto, 2008; ECB, 2019)。
この市場は土日も休まず、世界中で24時間取引されているので、まるで「眠らないマーケット」です。そんな環境だからこそ、「いつ取引すればいいのか」「人間の目や手で全てのチャンスを追えるのか?」といった悩みが生まれがちです。
ここで頼りになるのが「自動売買(アルゴリズムトレード)」。これは、あらかじめ決めた条件やルールにしたがって、システムが自動的に売買を行ってくれる仕組みです(Lopez de Prado, 2018; Gomber et al., 2018)。
このガイドでは、暗号資産についてまだあまり詳しくない方や、多少は触れたことがあるけれど自動売買は初めてという方、そしてすでに経験豊富なプロトレーダーまで、みなさんが自分に合った方法で自動売買を始めたり、スキルアップしたりできるよう、丁寧に説明していきます。
※わからない単語があれば、記事中で補足説明を行いますので、安心してついてきてくださいね。
1. なぜ「暗号資産×自動売買」なのか
暗号資産市場は、株やFXよりも価格の上下が激しいことが多く、いつも忙しく動いています(Abraham et al., 2018; Foley et al., 2019)。
たとえばあなたが仕事中や眠っているときも、価格が大きく動くかもしれません。そんな中、手動で常に目を光らせて取引するのは大変で、感情で「焦って買ってしまった!」とか「損切り(※値下がりした時に損失を確定してリスクを抑える行為)しそこねた…」といった失敗もしがちです(Baumeister & Kilian, 2018)。
自動売買は、その感情的なミスを減らし、あらかじめ考えた「この条件なら買う、ここまで下がったら売る」といったルールに従って機械的に注文を出すことで、あなたのトレードを24時間助けてくれます。
こうした方法は伝統的な金融市場でも利用されてきましたが、暗号資産市場はまだ新しく、非効率的な動き(つまり、うまくいけば利幅がとれる可能性)も残っているので、ここで自動売買が特に注目されているのです(Foley et al., 2019)。
AさんやBさんのように「どんなツールがあるの?」「どうやって始めればいい?」と不安な方もいると思います。このガイドではまず基礎から説明し、段階的にレベルアップできるようにお手伝いします。
2. 暗号資産をもう少し理解してみる
2.1 ブロックチェーンって何?
暗号資産は、インターネット上で価値を交換するしくみです。その基盤となる技術「ブロックチェーン」は、取引の記録をみんなで共有しているようなもの(Nakamoto, 2008; Ethereum Foundation, 2020)。
※イメージ:友達みんなが「この取引は本当?」と合意してメモを取っていくので、ウソがつきにくく安全性が高い。
ビットコインやイーサリアム(Ethereum)は、このしくみを使って、人や国に頼らずお金を動かせるようにしています(Ethereum Foundation, 2020)。
この考え方が革新的で、今ではさまざまな種類の暗号資産が生まれています。初心者がすべてを理解する必要はありませんが、「中央の銀行がいない」という点がとてもユニークなのだと覚えておくとよいでしょう。
2.2 市場はどう動くの?
暗号資産は、BinanceやCoinbaseといった「取引所」で売り買いします。これら取引所は世界中の人たちがアクセスでき、一日中休みません。
そのため価格が上下するスピードも速く、何が起きるか予想しづらい面もあります(Chen & Li, 2021)。
まずは名前が知られた大手取引所から始めるのがおすすめです。流動性が高く、サポートも整った環境で取引できると、自動売買ツールを連携させてもスムーズに動きやすいからです。
3. 暗号資産投資を取り巻く環境
3.1 取引所の選び方
取引所ごとに手数料、使いやすさ、取り扱いコイン数、セキュリティ強度、そして自動売買用のAPI(※プログラムが取引所に注文を出すための窓口)の性能が違います(Deloitte, 2022)。
最初は、手数料が安く、実績のある大手取引所がおすすめ。※APIが充実していると、自動売買ボットが快適に注文を出せるようになります。
3.2 ウォレットって何?
「ウォレット」は、あなたが持つ暗号資産を保管する「財布」のような存在です。
取引所内に置く方法(カストディ)と、自分だけが秘密鍵(お金の鍵)を管理する方法(ノンカストディ)があります(Trezor Docs, 2023)。
最初は取引所のウォレットでOKですが、大きな資金や長期保有分はノンカストディウォレット(例:ハードウェアウォレット)で安全に保管した方が安心です。
4. トレード基礎・インジケーター入門
4.1 テクニカル分析とは
テクニカル分析は、これまでの価格の動きや出来高(どれくらい売買されたか)を見て、次の動きを予測しようとする方法(Murphy, 1999)。
例えば、RSIというインジケーターは値上がり・値下がりの強さを数値化し、「買われすぎ(高すぎる)」「売られすぎ(安すぎる)」を示してくれます(Wilder, 1978)。MACDは移動平均線を応用してトレンド変化を示すインジケーターで、トレンドが強い時期かどうかをチェックできます(Murphy, 1999)。
これらを理解すると、自動売買の条件設定がしやすくなります。「RSIが70を超えたら売る」、「MACDがクロスしたら買う」など、機械的なルールにしやすいからです。
5. 自動売買トレード:入門~上級のステップ
5.1 はじめの一歩(初心者向け)
まずは簡単な自動売買ツールや、あらかじめ用意された戦略(テンプレート戦略)を使ってみましょう(Shrimp et al., 2021)。
GUI(マウス操作で設定できる画面)で条件を登録し、実際の取引がどうなるかを小額資金で試してみると良いです。
※ここでは「とにかくやってみる」ことで、自動売買の感覚を掴むのが大事。失敗しても少額なら痛手も少なく、学びやすいです。
5.2 少し慣れたら(中級者向け)
自分で条件をカスタマイズしてバックテスト(過去の相場であなたの戦略がうまくいったか検証すること)を行いましょう(Gebbie & Wilcox, 2017)。
RSIとMACDを組み合わせたり、損切りラインを設定したりして、収益性やリスクをチェックします。※複数の期間でテストして、どのくらい安定して利益が出るかを見ると戦略の「頑丈さ」が分かります。
5.3 さらに上を目指すなら(上級者向け)
プログラミング(Python, C++など)やPine Scriptを使い、独自の複雑な条件をコードで書いてみる段階です(Lopez de Prado, 2018; TradingView, 2023)。
例えば、HFT(高頻度取引)という超高速トレードや、ニュースの分析結果をトリガーにするような高度な戦略にも挑戦できます。ただし、こうなると知識も労力も増えますが、工夫次第でオリジナルの「必殺技」を作れます。
6. ツール・サービス・取引所紹介(概略)
初心者なら、Pionexや3Commasなど、使いやすい自動売買ボットプラットフォームからスタートすると良いです。中級者以上なら、TradingViewでPine Scriptを書いてインジケーターや自動売買シグナルをカスタムできます(TradingView, 2023)。
より高度な方は、Pythonライブラリを使って自前で環境を構築し、AWSなどのクラウドで24時間稼働するシステムを作ることも可能(Meyer, 2019)。取引所は、BinanceやCoinbaseなど大手で流動性が高く、APIが安定している所を選ぶとスムーズに自動売買ツールが動きます(Deloitte, 2022)。
7. Pine Scriptでのカスタム戦略
Pine Scriptは、TradingViewというチャートツール内で使える簡易的なプログラミング言語で、これを使うと「RSIがX以上になったら売り、Y以下なら買う」といった細かい条件を自由に作れます(TradingView, 2023)。
初心者に毛が生えた程度でも、サンプルコードを少し変えるだけで独自の戦略をつくれます。もしプログラミングが難しいなら、受託開発を依頼して、「あなたのアイデア」をコード化してもらうことも可能です。
8. 暗号資産市場の将来性とトレンド
この市場は、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)や、分散型金融(DeFi)、NFT、Web3など、新しいキーワードが次々登場し、まだまだ進化中(IMF, 2021; Chen & Li, 2021)。
こうしたトレンド変化は、価格にも影響します。たとえばNFTがブームになった時、それに関連したトークンが急騰することがあります。自動売買は「特定イベント(例:あるコインが特定メタバース関連プロジェクトと提携)で買いシグナルを出す」といった形で対応可能です。
将来、市場がもっと成熟し、効率的になれば、アービトラージ(価格差を狙う)など簡単な戦略で儲けることは難しくなるかもしれません(BIS, 2021)。でもそのときは新しい工夫(オプション取引や機械学習の活用)で新たなチャンスが生まれます。
9. よくある質問(FAQ)
Q1: 自動売買は最初から大金を突っ込んでいいの?A: できれば少額で試してください(Shrimp et al., 2021)。まずは小さな実験をして「この戦略で本当にうまくいくのかな?」と確かめることが大切です。
Q2: バックテストって本当に大事?A: はい、とても大事です。過去のデータでどのくらい安定して利益が出たか確認することで、運用の不安を減らせます(Gebbie & Wilcox, 2017)。未来が同じように動く保証はないですが、まったく検証しないよりはずっと安全です。
Q3: プログラミングが苦手でも大丈夫?A: もちろんです。最近はプログラミング不要のツールも多いですし、受託開発のサービスもあります(TradingView, 2023)。少しずつ学べば、マニュアルやサンプルも充実しているので、恐れずにチャレンジしてみてください。
10. まとめ
本ガイドでは、暗号資産の基本と、自動売買がなぜ有効なのか、そして初心者から上級者までのステップアップ方法をお伝えしました。
初級トレーダーは、まずは簡単なボットやインジケーターを使って、小額で試しながら雰囲気を掴んでください。中級レベルの方は、バックテストや条件カスタマイズで自分流の戦略を練り、中期的に安定する方策を探ってみましょう。上級者のようにプログラミング経験がある方は、ぜひ独自のアルゴリズムや高度な戦略に挑戦し、市場の変化に柔軟に対応できる仕組みを構築してください(Lopez de Prado, 2018)。
暗号資産市場はまだ成長途中であり、新しいアイデアやテクノロジーが次々に生まれています。そのため、一度戦略を作ったら終わり、ではなく、常に学びと改善を続けることで、よりよい結果へ近づける可能性があります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。このガイドを参考に、「私にもできるかも」と思ったら、ぜひ一歩を踏み出してください。あなたの投資ライフが、より豊かで効率的なものになることを、心から願っています。
【参考文献】
Abraham, J., Higdon, D., Nelson, J., & Ibarra, J. (2018). Cryptocurrency price prediction using tweet volumes and sentiment analysis. SMU Data Science Review, 1(1).
Baumeister, C., & Kilian, L. (2018). Energy markets and the global economy. Journal of Economic Perspectives, 32(2), 135–154.
BIS (Bank for International Settlements). (2021). BIS Annual Economic Report.
Chen, Y., & Li, Y. (2021). An analysis of arbitrage in decentralized exchanges on Ethereum. arXiv preprint arXiv:2106.00231.
Deloitte. (2022). 2022 Global Blockchain Survey. Deloitte Insights.
Dune Analytics. (2023). Market data dashboards. https://dune.com/
ECB (European Central Bank). (2019). Crypto-Assets: Implications for financial stability, monetary policy, and payments and market infrastructures.
Ethereum Foundation. (2020). Ethereum White Paper. https://ethereum.org/
Foley, S., Karlsen, J. R., & Putnins, T. J. (2019). Sex, drugs, and bitcoin: How much illegal activity is financed through cryptocurrencies? The Review of Financial Studies, 32(5), 1798–1853.
Gebbie, T., & Wilcox, D. (2017). Universal scaling in non-stationary correlation matrices. Physical Review E, 95(3).
Gomber, P., Koch, J.-A., & Siering, M. (2018). Digital finance and FinTech: current research and future research directions. Journal of Business Economics, 87(5), 537–580.
IMF (International Monetary Fund). (2021). Global Financial Stability Report.
Lopez de Prado, M. (2018). Advances in Financial Machine Learning. Wiley.
Meyer, D. (2019). Cloud architectures for algorithmic trading. ACM Queue, 17(2).
Murphy, J. J. (1999). Technical Analysis of the Financial Markets. New York Institute of Finance.
Nakamoto, S. (2008). Bitcoin: A peer-to-peer electronic cash system. https://bitcoin.org/bitcoin.pdf
Shrimp, N. et al. (2021). Algorithmic trading using machine learning in the crypto-market. arXiv preprint arXiv:2107.11137.
TradingView. (2023). Pine Script™ Reference Manual. https://www.tradingview.com/pine-script-docs
Trezor Docs. (2023). Security best practices for crypto storage. https://trezor.io/
Wilder, J. W. (1978). New Concepts in Technical Trading Systems. Trend Research.
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